納税者番号(TIN)としてマイナンバーは使えないぞ! KDPの「税務情報に関するインタビュー」について国税庁・税務署・Amazonに問い合わせた結果

2022年5月26日

Kindle出版歴も3年を経過し、出版点数も累計9冊となった私ですが、先日、Amazon公式からこんなメールが届きました。

「ご対応ください: 米国の源泉徴収税率軽減に必要な税に関する情報」

どういう連絡かというと、アメリカのAmazonでかかる税金を0にするために、「税務情報に関するインタビュー」というものを書き、送信する必要があるとのこと。すでに何年か前にやっているのですが、再度必要だというのです。

そこでその「インタビュー」(実際にはフォーム入力だけで済む)に着手したのですが、一つ不明点にぶち当たりました。

「納税者番号(TIN)を入力する欄があるけど、日本のマイナンバーでいいのか?」

これが、いくら調べてもわからない。そこで、国税庁・地元の税務署・AmazonのKDPカスタマーサポートの3者に問い合わせをしたのですが、結論としてはこうです。

KDPで入力を求められる納税者番号(TIN)には、マイナンバーは使えません。

これが最終結論。

なので、やることとしては「TINは持っていない」としてインタビューを提出(送信)すればOKです。

最終的にこれでOK

以下、もっと知りたい方に向けて詳細を書いていきます。

KDPの「税務情報に関するインタビュー」とは何か?

まずこれです。Kindle出版を行なっている場合、法人でも個人でもこの「税務情報に関するインタビュー」の提出が求められます。

KDP管理画面右上「アカウント」から行ける

日本国内でKindle出版をしたとしても、Amazon.co.jpだけでなく、同時にアメリカのAmazon.comでもKindle本を売ることが可能です。特段理由がなければだれでもそうするでしょう。

すると、アメリカでもしKindle本が購入された場合(またはKindle Unlimitedなどで読まれた場合)、アメリカで所得が発生したことになります。このとき、Amazon.comの方で所得税30%が源泉徴収で引かれることになるのです。

TINなしで送信するとこうなる

つまり、放置しておくとアメリカでの売上から30%引いた金額しか振り込まれません。

ところが、日本とアメリカのあいだには租税条約というものが締結されており、申請をすれば軽減措置を受けることができます。言い換えると、「日本で税金を納めている人はアメリカの所得税を払わなくていいようにできますよ」ということ。二重に税を払うのはおかしいですから、当然と言えば当然です。

そうして、その軽減措置(というか免除)を受けるために提出するのが、「税務情報に関するインタビュー」ということです。

納税者番号(TIN)としてマイナンバーは使えない

このインタビューに回答するとき、ややこしいのが納税者番号(TIN)というものです。

TIN:Taxpayer Identification Number

フォームの下の方にそういう部分があるのですが、どうしたらいいか一見分かりません。

フォーム最下部にこの欄がある

そもそも納税者番号(TIN)というのはアメリカの内国歳入庁IRS(日本の国税庁に相当)が決めたもののようです。日本では発行されていません。

ここで思うのは、

「TINはないけど、税金に関する数字ならマイナンバーがあるじゃん。これでいいはず」

私もそう思いましたし、かなり多くのウェブサイトには「マイナンバーを入力すればいい」と書いてあります。

けれど、これは間違い。最初に書いた通り、TINとして日本のマイナンバーは通用しないのです。

Amazonのヘルプページを深いところまで調べると、こう書かれていました。

「日本のマイナンバーは、米国の税務申告には使用できないため、税務情報に関するインタビューでは使用できません。その場合は、税務情報に関するインタビューで TIN を持っていないと回答するか、米国の Individual Tax Identification Number (ITIN) を申請して、その ITIN を入力します。 」

https://kdp.amazon.co.jp/ja_JP/help/topic/G200641090

たぶん多くの人はこのページにまでたどりついていないのでしょう。けれど、やはりTINとしてマイナンバーは使えないというのが結論です。

国税庁と税務署に問い合わせた結果

しかし、私はなんだか納得がいきませんでした。マイナンバーは税務も含めて個人を識別するための番号です。これが「納税者番号」として通用しないとは考えにくい。

そこで、まず国税庁に電話しました。

☎︎

社会保障・税番号〈マイナンバー〉制度の最新情報やお問合せ
マイナンバー総合フリーダイヤル0120-95-0178(無料)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/07_5.htm

こちらで丁寧に対応していただいたのですが、結論としては、

「TINとしてマイナンバーが使えるというふうには、こちらとしては言えない」

でした。

なんとも歯切れの悪い結論ですが、どうやらダメそうです。

次に税務署の方にも訊いたらどうかという示唆を受けたのでいつも確定申告をしている地元・本庄税務署にも電話して訊いてみました。

☎︎

本庄税務署
電話: 0495-22-2111

こちらの結論としては、

「国税庁に依頼して居住者証明を取り寄せ、それをAmazonに送り、整理番号を伝えればいいのでは?」

でした。

しかしAmazonには居住者証明なるものは求められていません。それに、「整理番号」は初耳です。

調べるとこうありました。

「整理番号とは、確定申告で個人を特定できるように税務署が割り当てた8桁の番号です。「確定申告のお知らせ」の手紙と申告書の用紙には、あらかじめ自分の番号が記入されています。」

https://biz.moneyforward.com/tax_return/basic/2427/

これは初耳。マイナンバーとは別にこんなものもあるのですね(ただし自分の確定申告書を見たらその欄は空欄になってましたが)。

というわけで、税務署的にもTINとしてマイナンバーは使えない、ということでした。

さらに、「アメリカのTINとしては、一般的に日本のどんな数字が利用できるのか」と一般論として尋ねてみたのですが、明確な回答は得られませんでした。はっきりと決まっていないのか、そもそも日本にそのような数字はないのかもしれません。

KDPカスタマーサポートからの正式回答

結局、国税庁からも税務署からも一般論としての回答は何も得られませんでしたので、Amazonのカスタマーサポートに質問を送りました。

📧

「米国との租税条約上の優遇措置の適用を受けるため、税に関するインタビューを提出する必要がありますが、そのときに記載を要求される「納税者番号(TIN)」として日本のマイナンバーは使用できるのでしょうか。 

国税庁などの情報を調べたところ、マイナンバーが納税者番号(TIN)として利用できるという明確な情報は見つかりませんでした。 」(抜粋)

2022年5月25日に質問

これに対し、こんな回答がありました。

「マイナンバーがTINとして利用できるのかについて

出版者が法人ではなく、出版者の雇用主が代わりに税務申告を行っている場合は、税務情報に関するインタビューに入力できる自分用の TIN がないことがあります。

日本のマイナンバーは、米国の税務申告には使用できないため、税務情報に関するインタビューでは使用できません。

その場合は、税務情報に関するインタビューで TIN を持っていないと回答するか、米国の Individual Tax Identification Number (ITIN) を申請して、その ITIN を入力します。

納税者番号(TIN)について詳しくは、税に関する情報要件を参照してください。

https://kdp.amazon.co.jp/ja_JP/help/topic/G200641090

税のインタビューの進め方については、以下のリンクより動画をはじめとした参考情報をご確認いただけます。

https://kdp.amazon.co.jp/ja_JP/help/topic/G201723290

恐れ入りますが、日本のマイナンバーは、米国の税務申告には使用できないため、税務情報に関するインタビューでは使用できない点についてご確認の上、ご回答いただきますようお願いいたします。」(抜粋)

2022年5月25日に回答

ということです。

最初の「出版者が法人ではなく、出版者の雇用主が代わりに税務申告を行っている場合は」という条件がついてるのがややこしいですが、私は法人でもなく、雇用もされておらず、個人として出版しています。この場合でもやはりTINはありません。なので、「書き方がちょっと変だな」という印象はあります。

TINは持っていないとするか、ITINの発行を申請

日本の国税庁にあたる米国の組織

通常、日本語で出版をするのであればアメリカでの売上はほぼ期待できませんから、税の軽減措置を受ける必要はありません。なので、「税務情報に関するインタビュー」でもTINは持っていないとして提出すればOKです。

この状態にすればOK

しかし、英語での出版を考えているのなら、ITINというものの発行を申請する必要があります。

ITIN:Individual Taxpayer Identification Number

こちらは内国歳入庁(IRS)が個人向けに発行している納税用番号です。こちらは日本の国税庁やアマゾンとは無関係に、IRSに英語で申請をしなければいけません。また、実際に課税対象になってからでないとITINの発行はされないようです。

英語でKindleを出版してある程度売れてきてから、で十分でしょう。

なぜ誤情報がまかり通っているのか

Googleで「KDP TIN マイナンバー」などと検索すると、「TINとしてマイナンバーが使える」という情報がかなりの数出てきます。なぜこんな情報が広まっているのか? 3つほど要因があると思います。

まずはイメージの問題。「納税者番号」と聞けばマイナンバーを想像するのが当然でしょう。で、ネットを調べるとそれでいいという情報があるから、そう思い込んでしまう。

第二にはAmazonの公式情報の分かりにくいさ。目立つ場所やレターでこの記事のような情報を書いてくれればいいのに、そこは説明がゼロ。おまけに大事な情報が目立たないところにあるので、そこまでたどりつけません。

第三には、これが重要ですが、マイナンバーを入力した場合でも一見申請が通ったように見えてしまうこと。

このように、インタビューを送信した直後に「該当する源泉徴収率:0%」と出てしまうのです。

しかし、そんな一瞬でIRSの審査ができるわけがありませんから、これは暫定的な表示に過ぎず、実際には棄却されているはずです。

棄却されているにもかかわらず気づかないのは、多くのKindle著者がアメリカでの売上がないからでしょう。それなら気付きようがありませんよね。

参考リンク集

税に関する情報の要件:KDPヘルプ

https://kdp.amazon.co.jp/ja_JP/help/topic/G200641090

米国 TIN (Taxpayer ID Number) の申請

https://kdp.amazon.co.jp/ja_JP/help/topic/G201274700

社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)の導入|国税庁

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/07_5.htm

確定申告の整理番号と利用者識別番号を詳しく解説 | マネーフォワード クラウド

https://biz.moneyforward.com/tax_return/basic/2427/

個人番号 - Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/個人番号

Internal Revenue Service | An official website of the United States government

https://www.irs.gov

おわりに

TINとマイナンバーの関係はあまりに情報が錯綜しているので、ちょっとムキになってとことん調べてみました。国税庁、税務署、Amazonカスタマーサポートの3者にまで問い合わせた人は他にほぼいないでしょうから、この記事がファイナルアンサーだと思います。少なくとも、2022年5月26日現在では。

にしても、せっかく行政手続き簡略化のために導入したマイナンバーが納税者番号(TIN)として利用できないなんて不合理です。はよできるようにしてくれよ、というのがホンネ。おまけに税務特有の「整理番号」まで残っててマイナンバーと一本化できていないというのですから、これはちょっと、お役所の怠慢ではないでしょうか。


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